「伏 鉄砲娘の捕物帳」評

文藝春秋万歳!ということで、「伏 鉄砲娘の捕物帳」評である。本作は2012年10月公開であるが、劇場で見ようと思っていて逃したのでつい最近リリースされたばかりのDVDで鑑賞した。

本作は非常に不幸な作品である。同年の7月には細田守の「おおかみこどもの雨と雪」が公開されたばかりで、犬獣+少女という図式で、「おおかみ〜」の追従作品乃至二番煎じと捉えられかねなかったためだ。

「おおかみ〜」旋風も過ぎたこの時期だからこそ、この作品を冷静に見ることができたのかもしれない。さて私は原作を読んだことはないのだが、なんというかその、つくづく文化庁が好きそうな作品(第16回文化庁メディア芸術祭審査員特別推薦作品)である。「伏」という獣人に恋した少女の浜路が、キスをするわけでもなく最終的には「文通から始める」というなんというかこのストイックさが堪らない。官も納得の安定感という訳だ。

無論、意図的に脚本を抑えているわけではない。本作の最大の白眉は、時代考証を意図的に無視しまくった世界観の構築である。本作を見て「何故江戸時代なのに現代語で手紙を書いているんだ!」とか真っ赤になるのはもう本当に野暮なツッコミとしか言い用がない。本作なりの江戸時代の再構築を見事に完成させている点は秀逸だ。

が、やはりなにか足りない。徳川家をまるで悪辣な支配層と捉えるニュアンスの部分は、あたかも階級闘争史観が紛れ込んでいると言え無くもないが、そんな事は置いておくとしてもともかく、官納得の安定感からか、映画的な一応の見せ場はあるものの、どれも優等生的でこれといったカタルシスに欠ける。大友克洋の「大砲の街」的な色彩の世界観はたしかに美麗だが、「ああ綺麗だね」という感想に終始する。

やはり脚本がいけなかったのか。あそこまで接近したのに何故文通から始めるのかが納得できない。いっそのこと省略法で1年後に、浜路の腹が大きくなっていて「伏」の血脈が脈々と続いていくことを暗示させたほうが、筋的にも良かったのではないか。

悪い作品では決して無いし、たまたま設定が似通っただけで「おおかみ〜」の追従作品というわけでも無い。充分に良作だが、なにぶん心が擦れてしまった齢30歳の私からすれば、優等生が創った手頃な完成キットを観たような気がして少し消化不良である。

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