渡邉美樹はなぜ参院選に出馬してはならないのか。

デフレ居酒屋の代表格である「ワタミ」会長の渡邉美樹が、今度は懲りずに7月の参院選に正式に自民党から出馬が決定したという。私は、繰り返しTwitterなどでこの渡邉出馬について絶対反対の意思を示してきたが、いよいよ正式決定とのニュースを前に腸が再度煮えくり返っている。

居酒屋チェーンワタミは、299円や169円などの激安メニューでデフレ下の日本の繁華街や街頭に急速に浸潤したが、一方従業員の過労死で民事訴訟を提起されたり、労働基準監督署から賃金未払い事件を指摘されたり、複数の食中毒事件を起こしたり、また系列の介護サービスではネグレクトを匂わせる入居者の死亡事例が複数発生していたりする(その他不祥事多数)、いわくつきの企業である。2012年にはぶっちぎりで、ブラック企業No.1に選ばれている。

この会長である渡邉美樹は、過去に東京都知事選に出馬した経験(落選)などがあり、ここ2,3年の間、急速に政界への野心を隠さないで居た。と、ここにきて参院全国比例で自民党からの出馬決定で、渡邉の政界進出への野望はついに結実するかに見える。

私は、渡邉美樹が最も許せないのは、「人が働くのはお金を儲けるためでなく人間性を高めるため」などという数々の嘘・虚言を堂々と放言し、今回の参院選では「満ち足りた生活で希望を失った日本の若者に、再び希望を持たせたい」などというニュアンスの持論を展開して政界進出の野欲を剥き出しに隠さない点である。

勿論その根底には、ワタミとその関連会社周辺の数々の不主事と、渡邉美樹自信がことあるごとに語っている「美辞麗句」があまりにもかけ離れているから、ということもある。しかし私が渡邉に激怒する本質は「実態と建前が乖離しているから」という性質のものとは少し違っている。

渡邉美樹は、ワタミという会社の実態と、自らがテレビや雑誌で放つ様々な美辞麗句の「乖離」に些かのためらいも感じていないように思える。その証拠に幹部社員に「窓から飛び降りろ」などという脅迫を言うことが、さも「ビジネス上の成功の秘訣」とでもいいたそうに、何のためらいも恥じらいもなく雑誌や取材で応えるのである。

つまり、渡邉美樹の「人が働くのはお金を儲けるためでなく人間性を高めるため」に代表される建前は、最早建前ですら無く渡邉のなかで真実性を持って存在している強固な思想である、という点だ。本来であれば実態と建前の乖離を自覚した上で、幾ばくかの遠慮やためらいが存在する。例えばブラック企業の経営者であっても、実態を隠して「お客様の笑顔が唯一の喜び」という歯の浮くようなセリフをいおうとも、内心ではそれが美辞麗句に過ぎないことぐらいは当の本人がわかっている。しかし、渡邉美樹の言葉からはそれを伺うことはできない。「社会貢献」「若者に希望を」「仕事は金ではない」という、笑ってしまいそうな建前を、何のためらいもなく堂々と、まっすぐな目で公言することが出来るこの渡邉美樹という男の中には躊躇を感じない。他人からすれば「偽善者」と名指しされる渡邉は、実際は「善を装うことすらせず」心の赴くまま、自分の世界に忠実な弾丸としていま、政界に進出しようとしているのである。

もうお分かりだろうが、こういったある種の信仰心を持った人間が政治家になることは最も危険なことだ。「若者に希望を」などという馬鹿の一つ覚えの台詞を本気で信じている渡邉だからこそ、いくら自分がこきつかって過労死している人間であっても、何ら良心の呵責を感じることはないのである。良心の呵責を感じないからこそ、「偽善」と錯覚するような「本心」を常に堂々と垂直に放ち続けるのである。

私は、なにも資本家が悪いとか企業経営者が悪であるとかそういった下らない話をしているのではない。最も重要な本質は、ワタミに代表されるブラック企業は、結果としてブラック企業になったのではない、という点である。つまり会社の業績が苦しく社員に賃金未払いや過剰労働が発生している、という訳ではない。そういう会社は単なる赤字会社であってブラック業とは異なる。ブラック企業が社会的に糾弾されなければならないのは、ブラック企業は仕方がなくブラック経営に陥っているのではなくて、最初から従業員を使い捨てにして踏み台にすることで高収益をあげている、というシステムを前提としているからだ。つまり、ブラック経営であることが成長の源泉であり、発展の前提なのである。

繰り返すが普通、こういった会社は巧妙に本音と建前を使い分けている。社員を奴隷のように扱う一方で、外部には「夢のある職場」などと喧伝する。しかし、本音と建前を使い分けるということは、それを使う側に一分の罪悪感が存在するということだ。しかし渡邉美樹はもはやそれすら通りすぎている。渡邉はそういった意味で表裏のない人間なのかもしれない。うら若い未来ある従業員が寝る日まもなく働き、やがて過労で血反吐を吐き死んでいくことこそが、「社会人としてほんとうに正しい」と心の底から感じているからこそ、だれがどう考えても反感を買いそうな言葉を、平然とのたまう事ができるのである。損得を考える狡猾な経営者は、あからさまに反感を買うような言動を決して取らない。その計算すらしない渡邉美樹は、本当に自らの世界観を信じ切った信仰心の塊という他無い。だからこそ怖いのである。

この手の人間を政治家にしたが最後、「社会貢献」「若者に希望を」「仕事は金ではない」などを引用して自らの信仰心と世界観に忠実なトンデモ提言とやらをどんどん提唱しだして手が付けられなくなる。その中には当然、若者による無償労働が含まれている。軍事的には何の意味もない徴兵制を支持する佐川急便出身の人間が共通して持つ価値観なのだろう。しかもそれらは、彼が裏表なく本心で本当にそう思っていることなので手のつけようがない。この手の信者は、喫茶店でコーヒーを飲むのと同じ感覚で、人を死に追いやったり人生を台無しにしたりすることに何の呵責も感じないであろう。それどころか、「自分は良いことをしてやったのだ」と喜びや充実感さえ感じているのである。繰り返すが、渡邉美樹は「偽善者」ですらない。本当にそれが良かれと心の底から思っているからこそ彼は何の躊躇もなく政治家になろうと思っているのである。過労死等々で死んでいった社員に何の罪悪感もないからこそ、未だに渡邉は美辞麗句をこれほど堂々と言い続けることが出来るのである。普通の精神ではこんなことはできない。渡邉には何の計算も思惑もない。心の底から本当にそれが善だと信じている。心の底から本当に。

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