「若者が保守化している」という大嘘〜そして山本太郎の当選〜

・若者が保守化した、という願望

 参議院選挙ですべての議席が出揃った。結果は、やはり従前の予想通り自民党の圧勝。そしてこうも自民党が勝つと、若い世代も愛国心や保守に目覚めて自民党に投票した、とすわ思いたくなる。事実上のネット選挙運動が解禁されて初めての国政選挙で、いわゆる「ネット保守」の訴えや拡散が、若者に広範な支持を得て、自民党が躍進した、とどうしても「保守」は思いたくなる。そういう言説は「保守派」にとって実に耳に心地よい。

 しかし実はこれは「保守」の願望ではないのか。私は今回の選挙で、自民党の圧勝よりも、東京選挙区における山本太郎の当選に衝撃を受けた。
 山本太郎は、大学生や20代を中心とした若年層のボランティアなど、草の根の組織力で(勿論、過激組織も入っているだろうが)当落線上にあるという事前の予想(しかしこれも、当初はトンデモと思われていた)を裏切り、定数5の内、4位で当選した。TBSの調査によると、東京選挙区での出口調査の結果、無党派層の投票行動のトップは山本太郎、次点が共産党吉良佳子である。共産党は15年ぶりに東京で議席を回復した。この両者とも、積極的なインターネットの活用を行なっている。吉良はともかく、山本の支持者は圧倒的に若年者が多い。この衝撃は計り知れない。

 「保守派」は、国政選挙や或いは大型地方選で、保守系の候補が競り勝つたびに、「インターネットの力」「インターネットによって感化された若者が支持した」という説を繰り返す。つまり、若者が保守化・愛国者化しているので、自然と保守系候補(自民)が当選している、という論調に走りやすい。繰り返すように、自民党の圧勝を受ければ、この様に考えてしまうのも当然だが、少なくとも東京選挙区の情勢を見れば、この「若者=保守支持」という構図は全く適当ではない。勿論、いわゆる「ネットの力」で当選効果があった候補者もいるとは思うが、少なくとも大勢には成っていない。

 「保守」が繰り返す「若い人が愛国心や保守に目覚めている」というのは、今回の山本太郎の当選と無党派の動向によって全く瓦解してしまった。若者は保守化しているというのは大嘘どころか、むしろ右も左も分からないような若年層の大学生やギャル(山本や吉良の背後で嬉々としてテレビに映っていた人々)は、どんどんと左傾勢力に取り込まれている、というのが実相である。「若者の保守化」は保守の願望であり事実ではない。


・ネット保守の中核は30代後半

 私は、いわゆる「インターネット保守(批判的な論調ではネット右翼と呼ばれる)」に対し、恐らく我が国で初めて統計調査を試みた。詳細は拙著『ネット右翼の逆襲 嫌韓思想と親保守論』(総和社)に詳しいが、その結果、圧倒的に自民党支持が多い彼らの平均年齢は、38歳程度で、お世辞にも「若者」とは言えないことが判明した。もっとも、政治の世界では30代後半とて若造ではあるが、本当の意味での若年層(20歳前後)とは年齢層が圧倒的に異なっている。

 ここにいつも誤謬が発生する。「保守」のいう「若者」とは、20代のことではなく30代後半がボリュームであること。そしてそれをあたかも20代の、うら若い大学生からの広範な支持であるように誤解してしまっているところだ。確かに、「保守」に10代、20代はゼロとは言わない。3年、5年前と比べれば絶対数が増加しているのは間違いはない。しかし、結句の投票行動が、その多くが保守党ではなく、山本太郎に流れたのは、今回の選挙では紛れも無い事実である。いまだ保守党の票田は、中高年に支えられているのだ。ここは揺らがない。

 じっさい、私が参加する「保守」の集会やデモや講演会に、20代なんてほとんどいやしない。更に10代ともなるとまるで”希少生物”である。繰り返すがその数はゼロではないが、圧倒的にマイノリティなことには変わらない。それをして「若者は政治に無関心」という結論に達するが、本当はそうではない。
 若者は政治に関心がないのではなく、単純に「保守に関心がない」のである。政治に対しそもそも無関心だから若者が来ないのではない。若者は保守ではなく山本太郎の方に魅入られたのだ。ある種オルグられたといっても良い。そうして山本は当選した。若者が保守化しているのなら、山本や吉良が当選するなどあり得ない。
「若者は左傾化・リベラル化していて、保守に興味がない」というのが私の実感に近い。そして、「保守」が想定している若者とは、実際は大学生とかギャルのことではなく、30代中盤から40代前半の有権者のことだ。もちろんこれすらも相対的には若いことは事実だが、いつも、常に、ここに誤解が存在する。


・「保守」はいまだ若者に対しあまりにも無力だ

 右も左もわからない様な大学生やギャルが、リベラルに回収されている。その原因は、俳優としての山本に知名度があるとか、そういうこともあると思うが、実際は違うと思う。右も左もわからない無知な大学生とかに、無理やり教育勅語を覚えさせるような、或いは徹底してまず様式美を求めるような、上からの近代化、或いは権威主義的な姿勢を「保守」が取り続けていたのにも大きな原因があるのかとも思うが、それも全部の理由ではないだろう。
 きっと人間は年齢を重ねると保守化する、というのが正しいのかもしれない。右も左もわからない無知な人間に、日本国のすばらしさを伝えるには、大前提的に受け手が若いことに起因する無教養や経験値の少なさ、という構造的な問題があるような気もする。詳細な分析はこれから更に時間をかけて行わなければならないだろう。

 ともかく、「若者は保守化している」とか「若者は右傾化している」という論調自体がそもそも間違いで、仮に正しかったとしてもそこで定義される「若者」というのは30代後半がボリュームだという事を忘れてはならない。右からの「若者の保守化」は願望に過ぎず、左からの「若者の右傾化」は単なる事実誤認とレッテルである。

 若者の心は、着実に保守から離れたところにある。それを自民党の圧勝で、まるで「若者からも支持を得た」と誤解してはならない。この誤解は慢心を産み、やがて次の選挙に影響するだろう。今回の選挙での影の勝利者とは、山本太郎吉良佳子に象徴される革新リベラル勢力だ。無償でボランティアに集った20代の若者は、5年10年と経たぬ内に、今度は第二の山本や第二の吉良となって、或いは党幹部候補や市民運動家の予備軍となろう。今回の選挙で、左翼勢力は次世代の育成を盤石に行う体制を整えることができたのである。

 一方の「保守」側は、大都市部の、無党派の、若者(20代の…)がインターネットを駆使して保守派の勝利に貢献したと本気で信じている部分がある。繰り返し繰り返し言うが、保守が想定する「保守的な若者」の実際は30代後半であり、本当の意味での若者ではない。

 山本に代表される選挙結果は、「保守」の訴えや浸潤が、本当の意味での「若者」に対し、あまりにも空振りであったことを象徴するものとして象徴的だ。スマホを使いこなし、クラブで遊んで、なんだかよくわからないけど地球環境とか大事だよね〜という、本当の意味の若者に対し、「保守」の訴えは全く無力である事を知らなければならない。まだまだ前途は多難である。「勝利の美酒」などにとても酔えるものではない。

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