欲望のない若者…「とある飛空士への追憶」評


 そういえばこの前、テアトルで「とある飛空士への追憶」を見てきたから評をしようと思う。例によって激しくネタバレになるのでご注意下さい。

 まず原作は読んだことはないのだが、異世界の書き込みは比べるのは可哀想だが王立宇宙軍の足元に及ばない。それは兎も角、お姫様を本国に輸送するという超極秘作戦を酒場でさらっと周囲の仲間に言ってしまうシャルルは皇子以上の馬鹿者という他無い。作戦が漏れたのは皇子の電報のせいではなく、きっとこの酒場の時点で敵国に探知されたのではないだろうか。

 さて、作画や空中戦の描写秀逸だが、脚本の全体は『タイタニック』と同じ。つまり何不自由ない子女が身分という檻の外で遭遇したちょっと「イイ男」に惚れて人生が変わりました、というパターンである。これは王道。ところが本作が違うのは、姫さまの人生は変わらず、そのまま皇族になる運命に些かの変更もないという点、これではややカタルシスに欠ける。物語的にはシャルルと駆け落ちをしたり、或いは婚約破棄するとかの波乱が期待されるがそれもなし。思春期特有の「人間的に何やら一歩成長した」感だけが残る姫さま。ただこれはこれでコンパクトといえばコンパクトと言える。

 ただ、一番気に食わないのはシャルルが余りにも聖人である件で、一体何を考えているのか良く分からない。折角もらった砂金をばらまくのは進行上やむを得ないが、それでも「人生1回分を損しちまったな」(つまりあと2回分は残っている)というカウボーイ・ビバップ的な皮肉は欲しい。(若しくは、ラピュタのラストシーンのドーラ一家の描写的な)それも無いので、純真無垢な真っ直ぐ優等生君がキスもせず年頃の女子と2泊3日しました、というだけにしかならない。でも優等生じゃなく下層階級という設定、ここが不可解。要するに「お姫様との思い出プライスレス」という感じなのだろうが、そう人生はうまく行かねぇだよという黒さを見せて欲しかったのは無理難題か。

 村上龍先生がエッセイ『逃げる中高年、欲望のない若者たち』の中で、「若者のクルマ離れというが、それは実は嘘で、単に若者に金がなく車が買えないだけであり、本当は欲しい物を諦めている言い訳」と仰っているがその通りだと思う。無人島に不時着したときに、酔った姫を襲えとは言わないが、命がけで遂行した報酬としての大金を、躊躇いなく海にばら撒くことに何の疑問も感じなような男は幾ら見てくれが良くても私は魅力を感じない。”銭ゲバ”になれとは言わないけれども、最近そういう「欲望のない主人公」が異様に多いように感じて気が滅入る。(その点でルルーシュには非常に好感を持つ)


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