『東のエデン』ＴＶシリーズ総括

　とうとう『東のエデン』ＴＶシリーズが先週を以って（関東地方）終了した。例によって管理人はつい今しがた、中盤から撮り溜めした本作を最終話（11話）まで視聴したわけである。

　軽く総括に入ろう。まず管理人はこのアニメを観てから、ず〜っと感じていたのは「いやに村上龍、村上龍しているアニメだなぁ」と言う事である。軍事的な描写（トマホークやイージス艦）やらパンツ君（板津君）の退廃的なネット・ニートぶり、学生サークルによる”東のエデン”というベンチャーサイトの立ち上げなど、本作の随所に村上龍的なギミックが散らばっている事に賢明なる読者諸兄ならお気づきであろう。

　作品のテーマ的には、「希望の国のエクソダス」とか「半島を出よ」とかに凄く似ている。どちらかというと、「希望の国のエクソダス」に近い。この小説は大まかに言うと、近未来の衰微した日本でニートっぽい若者が環境ベンチャーすると言う話だが、話のテーマが『ありとあらゆるもので満たされているこの国の中で、唯一希望だけが無い』というなんともまた村上龍的なド直球の長編小説だが、東のエデンもまたこのような系統の話である。

　しかしながら、東のエデンが東のエデン足りているのは、各所で周知の通り、本作がＴＶシリーズでは完結しないという事だ。報道では、今年冬と来年の2回に分けて劇場版が公開される事が決定しているという。しかもガンダム三部作とか、エヴァの劇場版DEATH & REBIRTH（1997年）のように何やら商業主義者の影がちらつく総集編と言う訳ではなく、ＴＶシリーズのその後を描く完全新作と言うのだから期待大である。ま、東のエデン劇場版の話はともかく、ここからは最終回まで見ていない諸君にはネタバレになるから注意して欲しいのだが、

　明らかに11話に出てきたタクシーの老運転手にフラグがたっているし、あとこのゲーム自体まだ終了していない（アガリのセレソンが居ない）。あと中盤で滝沢朗と戯れていたアンドロイドみたいな奴の正体も分からない。ＴＶシリーズとして一応完結した体を装っているが、結局の所じゃあこの国をどうすればいい？という答えは劇場版へ持ち越しと言うわけだ。

　あと軽い総括としてコレだけは言いたいが、パンツが生きていて本当に良かった。劇場版では是非ともダイエットに励んでもらいたい。パンツは広島出身の京大生と言う設定なのだろうか？京都での終盤「八条口」とか細かい設定が冴えていて良かった。ただ、いくらニートおよび世論に裏切られたからといって、辛いので記憶消しちゃえ、というのは動機付けとして弱い気がするし、滝沢朗はそもそもそういう気弱なキャラとして位置づけられていないと思うのは気のせいであろうか。滝沢朗が記憶喪失と言うのは物語初期の推進力として必要な要素であって、その原因を全部森美咲の台詞で説明するのは少し頂けない。これじゃあ「エウレカセブン」のハップが終盤になってレントンに対し「実はこの世界は云々〜，エウレカと言うのは実は云々〜」という所謂”世界観語り”を唐突に始めたのと同じだ。当たり前だが、この部分をアニメ的表現で説明しなければアニメにした意味が無い。

　ただ、やっぱりそういった難を補ってなお東のエデンは良く出来ている。「この国を云々」という天下国家論的な壮大なテーマを良くまとめているし、基本的にやはり神山健治監督は演出・脚本どちらも相当上手いと思う。あと、忘れてはならないのはプロダクション・アイジーならではの作画クオリティの高さである。そして３話辺りから話の推進力にブーストがかかり、非常に良いテンポでストーリーが進んでいく。セレソンを12人と規定した所も上手い。最初から劇場版ありきという珍しい企画だったので、観ている側にも「この後に劇場版があるよ」という条件が織り込み済みである。先に引き合いに出した”エウレカセブン”が話を広げすぎて竜頭蛇尾に終わってしまったのと比べれば、『東のエデン』は近年稀に見る良作である。

　昨今劇場版にこれほど期待がかかるテレビシリーズも無いのではなかろうか。視聴率的にも圧勝（同時間帯1位）と言う数字が、本作がいかに安定的に魅力あるストーリーを展開してきたかについての何よりの証拠である。『東のエデン』ＴＶシリーズは大成功である。

　蛇足だが締めくくりに言わせていただきたい。セレソン＃10の結城君がスカイ・クロラの主人公（函南優一）にしか見えないのは管理人だけではあるまい。なるほど同じアイジー作品の函南がまたぞろ輪廻転生して結城君に生まれ変わったのであると想像すれば全て辻褄が合いますな！

アニメ『東のエデン』、注目の「劇場版」は何と2部作となって公開決定
http://journal.mycom.co.jp/news/2009/06/19/008/

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