宇木敦哉監督『センコロール』にみる動画革命東京の包容力

 さる10日、テアトルダイヤ(池袋)にて宇木敦哉監督作『センコロール』を鑑賞した。聞くところによると、東京都が支持母体の総合アニメプロデューサー事業動画革命東京の全面協力があったとは言え、ほぼ宇木敦哉氏のソロ作品である。尺は30分と短いが(それでも個人アニメ作家という観点で考えれば驚異的に長尺なのだが)、劇場は平日にもかかわらずほぼ満員であった。日本アニメ界の先駆的な試みに対し、これだけ多くの観客が集まるという事自体、驚嘆すべきことであり又わが国アニメ界の将来に少なからず希望の光が灯されていると言って過言ではないであろう。まさに、

  テアトルは〜我々文化の母でありぃ〜大友克洋/画、矢作俊彦/作『気分はもう戦争』より中国へ向かう日本人義勇兵の台詞風)

 という気分である。肝心の本編であるが、勿論「革命」と言うほど凄いストーリーや技術や着想があるわけではないが、個人のアニメーターがここまでのものを作る、ということ自体が準革命と言うべき作品である。換言すれば、『動画革命東京』の支援なくしてセンコロールはなく、あったとしてもこのクオリティや勿論限定的とは言え全国公開などの可能性はなかったであろう。『動画革命東京』が如何に、わが国アニメ界の『アニメ版ベンチャーキャピタル』的存在の筆頭であるかということを痛感させられたという意味で、本『センコロール』はわが国アニメ界の歴史にその名を残す作品であるといっても差し支えはあるまい。

 さて、本作を鑑賞しながら管理人は何故か不思議な既視感を感じずには居られなかった。それは『センコロール』の背景、即ちこのちょっと不思議な騒動?が行われている舞台に対する強烈な既視感であった。落葉樹ばかりで緑の極端に少ない街頭、薄いクリーム色やレンガ色主体の直線的なマンション、妙に無機質で乾燥した雰囲気を醸し出す道路…、ん、ひょっとしてこの『センコロール』の舞台って…と次の瞬間疑惑が確信に変わった。巨大なセンコ(劇中に登場する怪獣みたいなの)が高層ビルの屋上に鎮座している。この高層ビルは札幌駅のJRタワーである。なるほど、『センコロール』の舞台は全て北海道・札幌市であったのである。パンフレットを見ると案の定ビンゴであった。何故管理人が『センコロール』の舞台を予備知識なしに的中できたのかといえば、それは管理人の出身地であるからであるという身も蓋もない種明かしなのであるが、


【↑巨大センコが鎮座していた札幌市のランドマークである駅ビル・JRタワー(173メートル)。蛇足だが管理人の実家はここより2キロ圏内】


 それは兎も角、記念すべき『動画革命東京』の第一次支援作品の舞台が、札幌市ということに管理人は何か強烈な示唆を感じずには居られなかったのである。

 例えば良く、○○映画祭とか○○文学賞というものを目にする。この○○と言うのには殆どの場合、地方自治体の名前が入るのであるが、こういう催しの詳細を見ると「○○(地名)に因んだ作品」「○○(地名)を舞台にした作品」というのが大変多く、その度に管理人はとても残念な気分になるのである。即ち、「芸術に国境はなし」などと高尚なことを言っておきながら、その芸術作品の内容に境界を設ける行為は、偏執的な郷土愛の発露、つまり「おらが村」の地域振興という前時代的で旧態依然とした思想の土台が見え隠れするからである。管理人はこういった「おらが村」的思想が心の底から嫌いである。「おらが村」的思考は結局のところ自己愛である。「おらが村」的思想は、他はどうでもいいから「おれが村」だけに道路を作ってくれ橋を作ってくれと言う歪んだ利権主義や排他主義の根本思想であるからである。なので、某宮崎県の某そのまんま東に代表される「おらが村」的思想の行き着く先とは、極端に国家感を喪失した醜悪なエゴイズムであり、日本などどうでもいいから自分だけを救ってくれ、という狂ったナルシシズムに達する。と、話が脱線したが、かく言う、『動画革命東京』という集団も東京都が支持母体の地域産業育成の事業である。管理人は、『動画革命東京』という名前だけは知っていたが、実のところこの『センコロール』を観るまでその実態を良く知らなかったのであるが、もしこの『動画革命東京』の第一回支援作品の舞台が秋葉原だったら、私はこの集団(事業)に非常に幻滅していたであろう。

 それは前述のとおり、『動画革命東京』は地域産業振興事業でなければならないから当然その作品舞台は東京でなければならぬ、という思想を基にしていたらそれはまさしく「おらが村」的な歪んだエゴの発露、若しくは狭隘な地元役人の小賢しい発想の帰結に他ならないからである。しかし、今回『動画革命東京』はその第一回作品の舞台に札幌市出身で在住のアニメーター宇木敦哉氏を選んだ。作品舞台も札幌市であった。従前であれば、このような個人クリエーターの野心的試みは行政が力を貸すとしたら札幌市や北海道が主体となったであろう。しかし、何の縁もない『動画革命東京』がそのクオリティの高さで『センコロール』を選んだ。私はここに『動画革命東京』の包容力を感じずにはいられないのである。

 もしかすると、「おらが村」的思想からの脱却を『動画革命東京』は宣言しているのかもしれない。当たり前だが県境や自治体の境目は行政的な境界であって現実に城壁があるわけではない。しかし、悲しいかな我々日本人の中には、馬鹿の一つ覚えのようにやれ「県民性」だのと言って日本人同胞を分断し、特定の地域を色眼鏡で見る事によって殊更地域間対立を煽ることに楽しさや優越感を発見しているどうしようもない小者が居る。道路や橋やダムの利権に、その県や自治体出身の土着政治家が、本来国家国民を考えるはずの国政で「地元地元」「地域振興」とお題目を唱えて工作をし、ひたすら地域エゴ最優先の愚かな「政治」と言う名のバラまきを行ってきた者が居る。しかし、アニメの世界にはそういった悪しき慣習を持ち込んではならない。アニメに県境はなく、また国境もない。アニメを愛する我々同志は、この世界の何処に居ようと同胞なである。そしてアニメ作品は一地方や団体が独占してその福利を享受すべものではない。優れたアニメは我々同胞の共有財産であり、ひいてはわが国の国家財産であるのである。

 18年間慣れ親しんだ街を忠実に再現したアニメを東京の映画館で観る。管理人は今回、『動画革命東京』の”有望なアニメ発掘は国益”であるという確固たる意思と、アニメと言う芸術分野の自由さ、そして将来性への希望を再確信した次第である。

 
 *予断だが、センコを操る少年の声に東のエデン・滝沢朗でお馴染みの木村良平氏。あと多分劇中登場する自衛隊真駒内(札幌)を駐屯地とする陸自の第11旅団と思われる。「最終兵器彼女」も同じ舞台でこんな感じの設定だが完成度は断然本作が上。



*劇場来場者には本作のポストカードが特典として進呈される。



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