そらのおとしもの〜本当の国辱とは？パンツが空を飛ぶ〜

　さて、私が「国辱もののアニメがある」という話を聞いたのは、ネットラジオ界の老舗『BSもてもてラジ袋』の09.10.17放送でのことである。アニメ・「そらのおとしもの」は今年10月から放送開始された作品であるが、その作品のEDにて”パンツが空を飛ぶ”というわが国の伝統と品性を貶める描写があると各方面で話題を呼んでいるとの事。これはアニオタ保守本流を標榜する管理人としてはチェックせねばならぬと思い、当該の作品EDを鑑賞した。しかし、それだけでは不十分なので、少し我慢して当該作品を1話〜4話まで鑑賞するに至った。

　本編を鑑賞して初めて分かったことだが、この作品には定型のOP・EDと言うものが無く、毎話ごとにOP・EDが変わると言う少し珍しいパターンの作品である。問題のパンツが空を飛ぶ、という描写は第2話のEDで使用されているが、正直申し上げるとパンツを鳥に模して、上手に動物っぽい表現を再現しており、これ単体で何かの曲のPVとしてMTVで流しても問題は無いような出来である。これの何が国辱なのか、私には理解できなかった。

＊国辱、と侮る無かれED自体は良く出来ている（第2話ED本編より）

　また、このEDには鳥のようにパンツが羽ばたくその地上を戦火で撃墜されたヘリの残骸や、最新鋭の戦闘機をパンツがロケットのように追い抜かすという描写があり、明らかにパンツは平和の象徴として描かれている。これは何か社会派の作品なのではないだろうか、と期待して本編を見たが、そこまで感嘆する様な演出上突出した才能を観ることはできなかったが、第1話でイカロス（正体不明の全能アンドロイド？のような少女）が世界中の人間を消して主人公が激しく後悔の涙を流す部分など、かの藤子不二雄先生のドラえもんに登場する「独裁者スイッチ」のオマージュと捉えることも出来、基本的に下世話なテイストながら”意外にまともに作られているアニメ”であるという感想を持った。しかし確実に私は今回の様なちょっとした騒動が無ければ鑑賞しないタイプの作品であることも確かではある。

　さて、今回の”空飛ぶパンツ騒動”の教訓とはいったい何なのであろうか。恐らくこの第2話EDを観て国辱と罵った人々はこの作品の本編を見ておらず、普段アニメなど観ないアニメ的リテラシーの無い人だと思われるし、逆にこのEDを大絶賛してパンツパンツ等と騒いでいる人々も、私は同様に古典的なアニメ作品に触れれたことの無いアニメリテラシーが間違った方向に低い人々なのだろうと思う。

　翻って、彼らの言う国辱とは本作のEDではなくて「アニメ作品を重層的な視点で鑑賞することのできない質の低いアニメユーザーの蔓延」であると私は断言したい。一昔前、エヴァブームの後の90年代後半から00年代前半にかけて、質的に余りに酷いと言う作品が粗製乱造された。例えばその筆頭はヤシガニ事件で有名な「ロストユニバース」だったり、名前だけ受け継いで中身は全くの粗悪品・不良品に代替わりした「ガンダムSEED」シリーズだったりと色々とあるわけであるが、00年代後半に入って流石に余りに質的に劣後するものは受け入れられなくなったのか、最近では本当に酷いアニメと言うのは基本的にお目にかからない。それ自体は喜ばしいことであるが、今度は変わってユーザー側の劣化が目立つようになったのは嘆かわしい限りである。

　世界中、いや日本国内に限ったとしてもその全てのアニメを観ることは物理的にできないであろう。だからこそ我々アニオタは、本当に良い、志の高いアニメを取捨選択して貪欲に吸収すべきである。パンツが空を飛ぶからという理由だけでアニメ的演出やアニメ的技巧を無視して悪戯に拒絶反応を起こしたり、逆にこの手の類のアニメだけを好んでみてポルノ的悦楽やポルノ的二次創作に浸るのは大変危険である。本当の意味でアニメを楽しむには、アニメ以外のもの、例えば文学・歴史・映画・漫画・宗教・心理学その他もろもろの総合的教養を重層的に養って初めて多角的なアニメの評価を下すことが出来る。それこそが本当の”アニオタ保守本流”であり、ユーザーとして正しい姿であると私は確信している。

　繰り返すようだが、今のところ本編を見るにつけてこの作品の製作者は比較的真剣に頑張っている様が画面から読み取れる。問題はそれを解釈するユーザーの教養に尽きるであろう。日本のアニメユーザーがこの先、教養を排除してこの手の作品からひたすらポルノ的感性のみを抽出して、萌え・同人・腐向けばかりの感性の人々で益々埋め尽くされる事になったとき、世界中のアニメファンは教養皆無の日本のアニメユーザーを指差して馬鹿だと嘲笑するであろう。「そらのおとしもの」を好んで毎週見るならば、同様に全裸（男の）やパンツが登場する「東のエデン」も熱心に鑑賞してこそ真のアニメオタクではないか。

　アニメはわが国が誇る世界最高の文化的財産である。そのわが日本に住む我々日本人ユーザーの教養こそが今こそ試される時であろう。我々は常に正しく賢い観客にならねばならない。自戒の意味も込めて思う。

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