何処よりも早い『サマーウォーズ』批評


 はいはいはいはい、お待たせ致しました。当たり前ですが今夏最大の話題作サマーウォーズ8月1日(初日)に行って参りました。当方のラジオ企画”ニコニコアニメ夜話”パーソナリティーの1人である中津川昴氏と同行。予想していた事だが、サマーウォーズ知名度&期待値とシネマディ(毎月1日は大人1,000円)なので新宿バルト9は一番混むだろうから最初からパス…TOHO系列のTOHO西新井に行く予定が、TOHOの空席サイトを見ると瞬く間に『西新井 SOULD OUT』の文字が。

 ということで結局、千葉県の流山市にある『TOHOシネマズ流山おおたかの森』まで足を運ぶ事になったと言うわけである。しかし、上映1時間前に着いたのに、既に座席が8割がた埋まっていて前の方しか残っていない状態であった。これはもう作品を見る前から『サマーウォーズ』の興行的大勝利を確信して疑わないものである。

 さてそんなこんなで本編上映である。てっきり、またぞろ電通の反動的策動やテレビ屋の商業宣伝を鵜呑みにした情弱の親子連れが大挙して上映中ガキがギャーギャー泣き出す最悪展開を予想していたが、その予想はいい意味で裏切られる事になった。客層は大体20代〜40代、カップル・子供(と言っても中学生くらい)もちらほらと居たがガキは皆無。基本的に普通のおっさん、おばさん多い。アニオタ保守本流としては大変良い動員傾向である。そも細田守先生の芸術的大傑作の良し悪しをガキが分かろうはずもない。社会での艱難辛苦を経験したいい大人が観るアニメ、それが”時かけ”であり”サマーウォーズ”であるのだ。

 まぁ前置きはこのくらいにしよう。肝心の感想であるが、うーん…なんというかなぁ。75点?という感じ。悪くはない。悪くはないが、これが同じく”時かけ”の細田守監督×奥寺佐渡子脚本コンビなのである所を考えると、ちょっと物足りない感じが否めない。いや、悪くはない。悪くは無いんだが、なんだかアレも・これもと張り切って色んなものを詰め込みすぎて統一性をやや欠くような印象を受けた。前作と比較ばかりで恐縮だが、”時かけ”で見せた余にも完璧な伏線の回収と展開、という芸術的で崇高な試みは正直本作では色褪せている。基本的にテーマ性ははっきりと出ている。それはいい。それはいいんだが、まぁ”時かけ”の2作目はこんなもんで上出来だと言えばそうであるが、やはりもうちょっと”ここの展開をこうした方がいいんじゃないの?”と見ている最中に突っ込みを入れたくなる脚本上の下手さや矛盾があった。

 ここから先はネタバレになるので白字で書くので、既に劇場で足を運んだ読者諸兄とネタバレをも恐れないという勇猛果敢な猛者のみ、『カーソルを反転させて』読んでいただきたい。(公開3ヶ月以上経過したため、解除09.10)

***以下ネタバレ***

 とは言え、やはりどうしても気にかかるのが本作の物語進行の最大のキーマンになる筈である陣内家の90歳のお婆ちゃんであろう。劇中、オズ世界の混乱がリアルワールドに波及し、電子決済やら電子業務やら交通管制やらがめちゃくちゃになって日本が混乱する…という描写があったと思う。それはいいんだが、それを観たお婆ちゃんが昔の年賀状?やら手紙やらを引っ張り出して黒電話を使って『お婆ちゃん人脈』に連絡をとるという場面がある。正直、この描写って意味があるのだろうか?この描写だけでは、『おばあちゃんって実は凄い人なんだぜ』という説明だけで、基本的にこの場面は本編の進行と何ら関係がない。というかそもそも、90歳のお婆ちゃんはテレビのニュースを見ただけで”セカンドライフ”みたいなオズの仮想世界がハッキング的混乱になってそれが現実世界(現実の行政業務)に波及し、混乱しているよ。というのが瞬間的に理解できるほど進歩的な人なのだろうか。

 100歩譲って理解できたとしよう。その上で90歳のお婆ちゃんが長野県は上田の片田舎から大昔の知り合いやら警視総監やらに激励の電話を掛けまくるのだが、お婆ちゃんが言うのは「がんばんなさい、あんたならできる」の一点張り。お婆ちゃんがNHKみんなのうたの「コンピューターお婆ちゃん」ばりの技術者で、オズの混乱を補正する技術的なアドバイスや知識を持っていると言うのなら別だが、どう考えてもお婆ちゃんは全く無根拠に「頑張んなさい、あんたならできる」と空疎空論で電話を掛けまくっているようにしか見えないのである。というよりも、この電子業務の混乱している所で、大昔の知り合いのおばあちゃんからいきなり電話がかかってきて無根拠に「頑張んなさい」と言われた方が迷惑なのではないだろうか。

 この時にお婆ちゃんが連絡を取った警視総監やらが、おばあちゃんの死後、キングカズマの絶体絶命のピンチの時にオズのIDを取って大勢で加勢に来るとか、てっきりそういう伏線なんだと私は最後まで思っていたがそういう伏線の回収は全くないまま終わる。この本作前半の盛り上がり場面は単なる『お婆ちゃん人脈』の披露で終わるのであるが、多分デジタル世界の対比として黒電話を登場させ”生の人間のつながり。ネットワーク”的なものの象徴としての描写なのであろうが、それにしても余にも脚本的に不発なのではないか。

 また、問題児・侘助侘助おじさん)が何年(何十年?)ぶりかに帰ってきた時にお婆ちゃんがキレてなぎなたを振り回し「ここで死ね!」というのも、後の『おばあちゃんの遺書』の内容を考えると少々シラける台詞だ。寧ろ思いっきりビンタの方が愛情を感じていいと思う。なぎなたを振り回して「死ね!」というのではお婆ちゃんが詫助を心底憎んでいるのか何なのか良く分からない。

 あと、主人公のケンジ君が”部外者の象徴””ネットワークからの疎外者”として描写されているのは良いが、先輩の彼氏と偽装していたのが露見し、あまつさえ犯罪者の疑いがかけられ否応無くもう一度”疎外者”としての自分を思い知らされるが、オズの混乱が云々の所で陣内家に舞い戻って、陣内家が揃ってラブマシーンとの対決をする所までの陣内家の面々の動機付けが丁寧に描かれていない。カズマの師匠のおっさん(ガタイの良いヒゲの)がお婆ちゃんの弔い合戦だ!という動機付けはともかく、その他の面々はやれ葬式だ、何だの準備で心ここに在らずの状況なのに、妙に物分りが良く最終的にはラブマシーンとの対決に全員が参加するという所が説明不足である。そもそも、最初のラブマシーンによるオズ世界乗っ取りが一時は頓挫した後、再度ラブマシーンが増長してオズを支配する際には現実世界の混乱という描写に於いては日本の惑星探査衛星の落下という場面しかなく、電車が止まったり信号機が操作されたり、配水管が破裂したり、119番の嘘情報が流されたりの、所謂『すぐそこにある日常の混乱』はクライマックスで持って来るべきだったのではないか。その後間髪入れず衛星落下、ということにしないといったん混乱が終わってしまうと本編の展開の勢いが削がれてしまって物語に切迫感がない。親戚の電気屋のオヤジが馬鹿でかいサーバーを持ってきたり、自衛隊のおっさんが情報収集車を拝借(盗んで?)までケンジ君の計画に協力する動機付けがイマイチ説得性がない。

 「どうせゲームの事なんでしょー?」という認識でしかない親戚が赤の他人であるケンジ君にそこまで協力するのは、『それは我々は例え血縁は無くとも繋がっている人類皆同胞だから!』という展開は半分程度描かれてはいるが、上記のような理由から残念ながら中途半端に終わっている。

***ネタバレ終わり***

 とは言え、この辺の部分は好意的に解釈すればという前提だが、それなりにリアルといえばリアルだ。田舎の親戚の集まりの動機付けなんてそんなもんだろ、と言われれば成るほどその通りなのかもしれないからである。

 という事で、この『サマーウォーズ観ていて何だが伊丹十三監督の映画『お葬式』を思い出した(※但し草むらでのセックスシーンは除く)のは管理人だけではあるまい。公開の丁度一週間前であるが、TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』に細田監督が生で出演されて宇多丸師匠と対談されていた。その中で細田監督自身が、『結婚して親戚が2倍に増えた。それまで”うざったい”としか思わなかった無名の親戚の面々が集まった時、実は物凄く面白く楽しいと言う事を知った』というニュアンスの事を仰っていて、今回の『サマーウォーズ』の着想のひとつになったと言う。これを聞いた時、言わずもがな管理人は、本作の主人公ケンジ君は他でもない細田監督自身であるなと強く感じた。

 ケンジ君は理系の、おとなしい気弱な童貞の高校生として描かれている。ちょっとだけネタバレになるが、ケンジ君は「自分の両親は仕事で忙しく、大家族で飯を食った経験などない」という事を話す。『つながりこそが、僕らの武器』という本作のキャッチコピーであるのに、ケンジ君の家族は誰一人として劇中に登場しない。ケンジ君は典型的な都会の核家族の子弟として描かれている。それは、繰り返しになるが細田監督自身なのだと思う。それまで、”うざい”としか感じなかった”親戚”と言う他者集団の中に身を投じていく事の違和感と窮屈さ。その監督自身のリアルな感性が本作の序盤で描かれている。しかし、その中に入っていく事(他者と繋がっていく事)は実は喜びにあふれる体験なのだ、とこの作品では語っている。

 この作品を観る我々観客も、実は最初ケンジ君に感情移入してストーリーを追う、という視点になっている。誰が誰だか、登場キャラクターが多すぎて最初は面食らう。しかし、2時間見終わった後、彼らスクリーンにいる大親族はいつの間にか我々の中で”他者”から”見知ったアニメキャラ”に変わっている。家族とは必ずしも血縁ではない。家族とは”つながり”のなかにある人間の集団である。

 この『サマーウォーズ』を見終わった後、いつの間にか我々観客があの大親族の一員になったかのように錯覚してしまう。この爽快な後味が本作の醍醐味であろう。前半やや辛口が続いたが、大ファンゆえの事とご勘弁願いたい。是非とも劇場に足を運ぶ事をおすすめしたい。



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