『夢をかなえてドラえもん』残酷な未来しか待っていない子供達へ


 ドラえもん新オープニングテーマ『夢をかなえてドラえもん


 新年も早2週間がたとうとしておる。今日は月曜だが成人の日という事で祝日である。成人の日、という事で以前から書こうと思っていたことを書こう。唐突だがドラえもんである。読者諸兄はおろか全人類がご承知のとおり、数年前にドラえもんの声優陣が全面的に刷新され、それに伴って内容・演出についても大幅変更になった。ドラえもんの声が大山のぶ代氏からわさびに、というこの声優の交代劇は、歴史的に言うなら17世紀の明清朝の交代に匹敵する東アジア史の大事件である事は論を待たない。所謂「新・ドラえもん」については、これも読者諸兄ご承知の通り、天国に居るF先生もさぞ嘆き悲しんでおられることであろうという兎に角ひどい内容で、まさに「内容は無いよ!(さる漫の竹熊健太郎風に)」というギャグが糞真面目に聞こえるほどの代物であった。声優の交代というのは100歩譲っても、内容の交代ではなく後退と言うのはどう考えても受け入れがたい。

 その、「劣化ドラえもん」の象徴が、当時のOPであった。この新ドラえもん第一期のOPテーマソングが、「ハグしちゃお」という「これはピースボートのテーマソングなのではないだろうか?」と見紛うばかりの、何と言うか形容すれば窪塚洋介が好きそうな感じの歌で、管理人はわさび氏のドラえもんが何となく受け入れられないという違和感と相乗して、この曲が嫌いで嫌いでしょうがなく、ドラえもんなんか早く終わってしまえばいいのに」と心から願った。神社仏閣に参拝した際などには、「戦後守旧派の象徴である所のドラえもんサザエさんが一刻も早く終わりますように」と祈りを捧げたものである。それくらい、兎に角この第一期のOP「ハグしちゃお」が嫌で嫌でしょうがなくて、いっその事「テレビ朝日クラスター爆弾が落ちないかな」等と空想したりもした程である。

 「犬にも猫にもハグしちゃお」という歌詞があるのだが、やけくそになってこのOPが流れる度に「オウムもヤクザもハグしちゃお」とか替え歌にしていたものである。嫌悪というか、殆ど憎悪に近いこの曲についてはこれ位にしておく(参考までに最下段に乗せるので暇な御仁は・・・)が、さて漸くこのOPが変更になったのが、約2年前・2006年のことである。これが現在に続くOP「夢をかなえてドラえもん」であるわけであるが、これがまた「長い圧政が続いた独裁国家が急に民主化したときの開放感」と言う様な、実に爽快で明るく、そして美しいOPに180度大変身したのは読者諸兄の記憶に新しいであろう。多分、フランコ体制が終わってファン・カルロス1世の元、開放・民主化した1970年代後半のスペイン人民はこんな気分を味わったのではないだろうか。それは兎も角、


↑「夢をかなえてドラえもん」歌詞のみフルバージョン。

 是非一度上記のフルバージョンを聞いていただきたい。「幼稚園や小学校や親子のカラオケ大会で楽しく歌えます」ともっぱら評判の歌であるが、本当に今回だけはその通りで、こんなに素晴らしい俗に言う神曲、OPアニメのセンスも実に素晴らしい現在のそれは、天国にいらっしゃるF先生もさぞ喜んで居られる事であろうと思う。肝心の内容の方も、OPが変った辺りから徐々に第一期の酷さよりも幾分マシになって来たに思える。(流石に批判があったのであろうか。何せお笑い芸人・ジャニーズとかをアニメキャラにしてドラえもんと共演させてたんだからね。ここ最近はそういうのは無い)


シンエイ動画の版権が厳しいらしくてOPアニメ視聴はこれのみ。有志が版権抵触の削除を恐れて個撮したものである。まぁこれくらいは良かろう。今やってるOPなので、観たことないなら是非観てほしい。もしくは普通に金曜日の夜7時にOPアニメを観て頂きたい。

 この「夢をかなえてドラえもん」という楽曲(歌・mao、作詞曲・黒須克彦、編・大久保薫)は上記の通り聞けば分かるが一見実に「明るく楽しく夢がある」のである。しかし、ちょっと待ってほしい。良く歌詞を聞いてみると、これがそうでもないと言うことに読者諸兄は気が付いたであろうか。実は全然明るく楽しい曲ではないのである。

 早速一番の歌詞を掲載しよう。


心の中 いつもいつもえがいてる(えがいてる) 夢をのせた自分だけの世界地図(タケコプタ〜)

空を飛んで時間を越えて 遠い国でも ドアをあけてほら行きたいよ 今すぐ(どこでもドア〜)

大人になったら忘れちゃうのかな?そんな時には思い出してみよう

Shalalalala 僕の心に いつまでもかがやく夢
ドラえもん そのポケットで かなえさせてね

Shalalalala 歌をうたおう みんなでさあ手をつないで
ドラえもん 世界中に 夢を そうあふれさせて


 どうだろうか。ドラえもんが何かをやってくれるとか、ドラえもんと一緒に夢の世界に行こうとか、ヒミツ道具でこんな素晴らしいことができる、という内容は一切無い。この歌詞に込められているのは、「現実の世界にはドラえもんなんて居ない」という強いメッセージである。

 「ドアを開けてほら行けるんだ 今すぐ」ではなく、「ドアを開けてほら行きたいよ 今すぐ」という歌詞が示すとおり、「行きたい」という願望のみ語られるばかりで、「行ける」とはひとことも言っていない。当たり前だが、現実には「どこでもドア」なんて存在しないからである。まるで子供期にドラえもんに憧れ、ドラえもんと共に夢の世界に浸った中年男が、荒んだ現代社会に嫌気がさして「どこでもドアでどっか遠くに行きたいなぁ」と一人都心の夜景を見上げながらシケモクに火をつけている、そんな情景が眼に浮かぶようではないか。更には、「大人になったら忘れちゃうのかな?そんな時には思い出してみよう、シャラララ・・・僕の心に、いつまでも輝く夢」と続く。

 もうお分かりであろうか。この歌は「ドラえもんに夢を貰って大きくなった全ての大人たちに捧げる歌」なのであり、と同時に「今、ドラえもんを観ている子供達よ。この国と君たちの将来は冷たく暗いだろう。世の中は嘘と腐敗に満ち溢れている。現実にはドラえもんなんて居ない。ヒミツ道具は無い。奇跡は起こらない。しかし、だからこそ大人になった時、夢のあるドラえもんを思い出して強く生きてほしい」という未来に向けた強烈なメッセージが込められていると管理人は感じた。

 ディビット・フィンチャー監督の「セブン」という映画がある。余りに有名なので読者諸兄もご覧になった方も多かろうと思うが、この映画のクライマックスでブラピ宛に一通の小包が届く。そこにはブラピの妻の生首が入っていると言うオチなのだが、愕然とするブラピに同僚の刑事がひとことこう言って、この映画は終わる。「世の中は糞だ。だが、戦う価値はある」と。今回、改めて「夢をかなえてドラえもん」を聴いて映画「セブン」のこの名台詞が脳裏を過ぎったのは管理人だけであろうか。

 具体的な根拠を挙げなくとも、この国の将来は暗い。先進国で最悪の借金、諸外国に突出して低い経済成長率、冷戦時代の構造を保持し続ける巨大な官僚機構と利権構造、自民党単独政権の弊害と旧態依然とした野党、ますます激化する国際競争、余りにも白痴化が進むマスメディア、産業の空洞化、地方都市の衰退、人口減少、歴史的にも他に類例を見ない高齢化、一時二次産業の後継者問題、頭脳・技術流出、圧迫される地方財政、消費税率問題・・・ざっとタイトルだけでもうんざりするほど暗い未来が待っている。歌詞にある「僕らの未来 夢が一杯あふれてる」なんて冗談も程ほどにしろと叫びたくなる様な未来。ドラえもんを見るような世代は今最年少で幼稚園位だろうか。彼ら、彼女らが物心付いたとき、今よりももっともっと酷い、残酷な未来が口を開けて待っているだろう。村上龍先生の「希望の国エクソダス」「半島を出よ」あたりを読むとおよそ近未来とはこんな感じでもおかしくは無いな、と思う。そんな残酷な未来で成人を迎える今一桁の子供達は本当に気の毒な(それとも幸福なのか?)気がする。しかし、我々はそんな未来でも生きていかなければ成らない。「夢をかなえてドラえもん」は正にその事を謳っている、と感じた。

 アニメの主題歌で、ここまで示唆的で美しく、そして切ないものも無いであろう。ドラえもん、という誰もが知るアニメのテーマであるだけに、そのメロディと歌声の明るさ故、余計に涙を誘う。稀代の名曲・名OPとして後世に語り継がれるであろうと思う。

 
 
 さぁ、最後は臭い台詞で〆ようとしよう。

 ドラえもんが居るのは未来の世界では無く、テレビの中でも無く、まして現実の中でもない。ドラえもんは不条理な世界を知ってしまった貴方の心の中にある、それでもなお光り輝く夢である。

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ハグしちゃお」↑これが殺意さえ感じさせる第一期のOP曲。今の奴と比べればその酷さが分かる。
あ、ごめんフォローしておくと「ドラえもんのテーマ」じゃなければそこまで嫌じゃないかも。








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