魔法少女まどか☆マギカと原発事故

・コンビニの店員がまどマギ談義

 魔法少女まどかマギカ新房昭之監督)を今見終わったのであります。最近、コンビニの店員(男二人)が接客をよそに本作の解釈を喧々諤々でやっていたのを盗み聞いて、いよいよ本作が一般公衆に浸透しているのだなと肌で感じていた。更には私の居住地である千葉県松戸市の”「まどか☆マギカ」カフェ(自宅から1キロ圏内)”に土曜日や金曜日に溢れんばかりの行列ができているのを見て、これはただ事ではない現状を確信していた次第である。

    • 以下ネタバレ注意--

・作品総評

 さて、数々の批評家が本作に関して秀逸な評論を行っているので私はやや違った視点から本作を語らねばなるまい。その前に、全体の総評・雑感としては、筒井康隆の「七瀬ふたたび」、同じく「エディプスの恋人」、同「時をかける少女」、映画「ターミネーター」、デヴィット・フィンチャー監督の「セブン」押井守の「スカイ・クロラ」等々の良いところ取りという感じであろうか。
 劇団イヌカレーなるアニメーターが描く「魔女」(といいつつ人間型ですらないその造形の不気味さ)の描写といい、音楽の挿入タイミング、若干引きのアングルが多いがスピード感のあるカットの構成など、どの傑作・名作アニメに関しても同じことが言えるのだが、大前提的に映像作品としてのクオリティが非常に高いことが特筆されるであろう。特に第12話(最終回)のクオリティは際立っており、近年のテレビアニメシリーズでは稀に見る仕上がりといって良い。

 キャラクターの造形については、言うまでもなく等身がデフォルメ気味の萌えキャラであり、輪郭線や瞳の中がデッサン風にして柔らかく暈しているのは、本作の脚本展開とのギャップを生じさせる為の意図的な演出でありこれは大成功であろう。逆に言うと、私のような『反萌え』の硬派なアニメオタクは、『魔法少女まどか☆マギカ』という作品タイトルの悪戯な「軟弱さ」と、このようなキャラデザによって冒頭から拒絶反応を起こすに違いないが、これもまた製作者の計画的戦略であるのは明白である。

 作中の後半になって、暁美ほむらが時間軸をループしていることが明かされるわけであるが、時間軸を遡行して未来時勢の改変を目指すというこのキャラクター描写は、先述した筒井康隆「七瀬再び」で登場するタイムトラベラー・漁藤子や、同「時をかける少女」の芳山和子(もしくは細田守版・紺野真琴)であり、もしくはロバート・ゼメキスの「バック・トゥ・ザ・フィーチャー」のマーティなど、この手のタイムトラベル作品には欠くことの出来ぬ存在となっているが、それが作中後半に明かされ、作中の冒頭と見事にリンクするというのは非常に綺麗な作品的カタルシスを呼ぶ展開となっており見事である。

 また、本作主人公である鹿目まどかが最終的には人間はおろか魔法少女をもこえた「宇宙次元を超えた何か超越的な存在=神に類似したもの」に昇華されるというその描写は、ツツイストで恐縮であるが、「家族八景」で徹底した傍観者であった主人公七瀬が、「七瀬ふたたび」でテレパスのノリオを守るもの(庇護者)に、そして最終的に「エディプスの恋人」という七瀬三部作のラストで「神に類似した存在」になる一連のストーリィと非常に酷似していると言えるだろう。

・それでも終らない「日常」を生きよ

 さて本題であるが、本作では所謂「終わりなき日常」が暁美ほむらという時間ループの主体者によって描写される。何度繰り返しても変わることのない結末。冒頭に押井守の「スカイ・クロラ」を引き合いに出したのはこれである。もちろん、時間軸を移動する毎に、登場人物(特に主人公のまどか)の人物性格に微妙な差異が生じているのであるが、結末が同じという点においては「クロラ」と同軸だ。しかしながら、このような「終わりなき日常」の最終的な変革が何度目かのループによって成されたのは、最終回をご覧になった読者諸兄もご承知の通りであろう。

 だが本作が、単純にまどかの覚醒(?)によって「終わりなき日常」にピリオドを打つことになったのかと言えば、劇中の通り答えは明確に「否」であった。「終わりなき日常」に対する一定の変革は行ったが、しかし魔女から形を変えた異形の物(巨神兵的な怪物)と暁美ほむらの対決・戦いは終わることなく続くことを明瞭に示唆して本作は終劇する。私は本作のこの「それでも終わらない日常を生きよ」というある種の結論(だからこそ、ゼロ年代の総決算と宇野常寛氏が言うのも頷ける)と、東日本大震災および福島第一原発事故等々に象徴される目下のわが国の状況が、否が応でもシンクロせざるを得ないのである。

 ご存知の通り本作の最終回(第12話)は、3月11日の東日本大震災および福島第一原発事故等々に伴う未曾有の事象によって、その放映が延期されたのは周知の通りである。皮肉なことに私は本作にあってこの震災と最終回が不幸にもリンクした事実に、何か本作の象徴的な意味づけを感じずにいられないのである。
 あの日、3月11日、日本と世界は信じられぬ自然の無慈悲な破壊を目にし、続く12日の福島第一原発事故では「東京マグニチュード8.0」ですら予想し得ない津波による冷却系の損壊による炉心温度上昇と、その結果の水素爆発、広域な放射能漏れという我が目を疑う事態に直面したわけであった。誰しもが戦後日本が営々と営んできた日常―そう、「終わらない日常」が終わるのかもしれないと感じていた。しかし2ヶ月半以上経ってどうであろうか。津波に襲われた岩手・宮城・福島等の各県沿岸部は未だして壊滅状態ではあるが、一時期放射線で首都壊滅!と騒がれた東京は一時期の平静を取り戻しているかに見える。計画停電で大騒ぎしていた「時代」は過去のものとなり、スーパーの棚に商品は戻り、節電をしつつもコンビニは24時間営業を行って、アマゾンからの宅配便は定刻通りに玄関に届く。「終わらない日常」は終わらなかった。いや、「終わらない日常」は、3.11の前と後で、微妙に形を変えつつも存続しているように思える。

 当初大騒ぎしていたゼロコンマ○○マイクロシーベルトは今や気象予報と同じように身近なものになってしまった。3.11の前と後で、世界は微妙に変わったが、幸か不幸か我々の大多数が3.11以後の世界にも存在しているという揺ぎ無い事実は、この国の「終わらない日常」が微細に形を変えながら存在し続けているし、また将来も恐らく同じであろうという事実を物語っているように思えてならない。暁美ほむらが、「魔女」の居なくなった世界においても、しかしそれでも「戦う」ことには変わりない日常を生きている本作のラストは、現下のわが国の状況と絶妙にシンクロしているように思える。

 ディビット・フィンチャー監督の出世作・映画「セブン」の終劇の台詞で胸に迫るものがある。助演のモーガン・フリーマンの台詞から引用する。「世の中は糞だ。だが、戦う価値はある」。これは、暁美ほむらの本作ラストでの決意とまったく動議であり、本作の主題そのものであった。

 震災とそれに続く原発事故で、一瞬終了するかに見えた「この国の終わりなき日常」は、奇しくも微妙に(絶妙に)形を変えながら継続している。「魔女」の居なくなった世界で、それでも戦い続ける暁美ほむらの姿こそ、震災・原発事故の後に続く、「放射能汚染」という要素が加わった「新しい日常」を生きる、われわれ自身の姿に思えてならないのだ。

・まどか家の不動産価値は?(余談)

 最後に余談であるが、本作の舞台はキュゥべえが言うように「人類人口69億人(現在の世界人口と同じ)」といいつつ、若干近未来の風情を醸し出しているが、やはり一番気になったのはまどか家の広大な豪邸についてである。作中で特に言及はないが、まどかの母は中間管理職のキャリア・ウーマン風、父親は専業主夫という感じである。もし仮に、まどか家が東京近郊の衛星都市(見滝原)であったとしても、わが国のせせこましい建蔽率ぎりぎりの住宅建築をせせら笑うかの如き余裕のある建て方(恐らく敷地で100坪以上、住宅面積は200平米を祐に超えているだろう。リビングだけで30畳以上あると思われる)を鑑みるに、新築で最低でも8,000万円以上(場所にもよるが1億2000万くらいが適正ではないか)は下らないと推測される。

 最終話で一家ごと体育館に避難していたり、河川敷で遊んでいたりと、生活実態は大して裕福そうでもないのに何故こんな豪邸に住んでいるのか。このあたりも前述の「ターミネーター2」に登場する天才技術者・ダイソンの邸宅のようだ。きっとどちらかの親(たぶん父方)の実家が資産家で相続したか何かしたのだろう。ローンを組んだとなれば、母しか働いていないまどか家は早晩返済で破綻するだろう。それともどこかの魔法少女が、「全ての中産階級が年収の5倍以下で豪邸を買える住宅事情に」することと引き換えにキュゥべえと契約したパラレルワールド・ジャパンなのだろうか。(風力発電も多数立っているようだし)いずれにしても、これだけ大きいと固定資産税も高そうである。

 また最後であるが気になったことは、自分の魂を秘石に委譲させて肉体は幾ら傷ついても大丈夫ならば、巴マミが頭を食われて死ぬのは矛盾ではないだろうか。「いたぁ〜い!でも大丈夫!」と胴体だけのマミが銃をぶっ放しても興ざめではあるが。


★急告★ニコニコアニメ夜話in チャンネル桜お題:魔法少女まどかマギカを語る!

★2011年5月28日(土曜日)深夜23:30〜渋谷日本文化チャンネル桜スタジオから生放送!出演:古谷経衡・山野車輪
配信URL↓
http://live.nicovideo.jp/gate/lv51025034



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